コレステロールが直接、成人病を引き起こすわけではありません。
それどころか、コレステロールは体にとって必要不可欠な物質なのです。
これがなければ、私たちは健康な肉体を維持することができません。
人間を含めたあらゆる生物は、小さな細胞が集まってできています。
たとえば、皮膚の細胞は約4週間で代謝回転するように、細胞は常に新しいものに作り替えられています。
その材料となるものをいつも用意しておかなければいけません。
それを私たちは食べ物から摂取したり、体内で作り出したりしています。
脂質の一種であるコレステロールも、細胞を作るときに必要な材料の一つです。
すべての細胞は細胞膜に包まれています。
その細胞膜を作る成分として、コレステロールは極めて重要な存在なのです。
この材料が不足していると、新しい細胞を正しく作ることができなくなってしまいます。
コレステロール不足が癌を招きやすいといわれるのもそのためで、細胞膜が弱いとその部分がガン化しやすいわけです。
また、女性ホルモンや男性ホルモン、ストレスを受けた時に副腎皮質から分泌される抗ストレスホルモンなどもコレステロールがなければ作れないのです。
コレステロールを善玉・悪玉に分けることの危険性
コレステロールは、肝臓でリポタンパクという蛋白質に包まれます。
宅配便のパッケージみたいな状態で血液の中を流れて、必要なところに届けられます。
このリポ蛋白というパッケージには、いくつか種類があります。
その中でもしばしば問題にされるのが、俗に「善玉コレステロール」と呼ばれるHDLと、
「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDLです。
つまり、この「善玉」と「悪玉」は正確に言えばコレステロールそのものの種類ではなく、
コレステロールを梱包したパッケージのことなのです。
LDLが肝臓から発送されてコレステロールを必要とする組織へ運ぶのに対し、
HDLはたとえば、血管壁などで余ったコレステロールがあるとそれを元の肝臓へ持って帰る役割を担っています。
往路のLDLにはコレステロールが多いのですが、復路のHDLには少なく、代わりにレシチンが多い。
HDLは回収したコレステロールをLDLに戻すこともやってのけています。
そもそも血中コレステロールを目の敵にするのは、動脈硬化や心臓病などの促進因子という考え方からですが、
LDLに対してHDLの割合が多ければ問題は生じません。
それがHDLを善玉と呼ぶゆえんですが、LDLもHDLも、それぞれに任務を果たすために存在していることを忘れてはいけません。
必要とされるからこそ、わざわざ梱包してていねいに運んでいるのです。
コレステロールが体にとって問題になるのは、このパッケージが壊れてしまったときです。
血管の中を移動中に「活性酸素」という有害物質にぶつかると、リポ蛋白が酸化されて梱包がほどけてしまうのです。
活性酸素については、いつか詳しく説明したいと思っておりますが、
とりあえずここでは、ガンを含めたさまざまな病気や老化の原因を作り出すタチの悪い物質だと思っていてください。
リポ蛋白という宅急便は、活性酸素という暴走族と衝突すると、積み荷の酸化したコレステロールを血管中にばらまいてしまうのです。
すると、今度はマクロファージという掃除機のような細胞が登場して、散乱した荷物を自分の中に取り込んで片付けようとします。
しかし、酸化されたリポ蛋白の数が多すぎると、マクロファージの働きだけでは間に合わなくなります。
そこで助っ人役を演じるのが、血管壁にある平滑筋の細胞です。
この平滑筋細胞やマクロファージがコレステロールを取り込むことによって生じるのが、アテローム(粥状隆起)と呼ばれるものです。
アテロームは、脳梗塞の原因になる厄介者です。
調べたところ、中にコレステロールが溜まっていた、それでコレステロールが目の敵にされるようになったのです。
問題は、コレステロールではありません。
活性酸素によってリポ蛋白が破壊されて、コレステロールが本来の流通経路からこぼれてしまうことが問題なのです。
コレステロール自体は必要な物質なのですから、それを減らすことを考えるより、
リポタンパクが破壊されない方法か、あるいは破壊されてゴミになってしまったコレステロールを体外に出す方法を考えるべきでしょう。
「悪玉」と呼ばれるLDLも、正常に運ばれているかぎりは体にとって貴重な資源です。
リポ蛋白を守るためには、活性酸素という悪党を退治してくれる物質を摂取すればいいのです。分子栄養学の三石先生は、そういう物質を総称して「スカベンジャー(掃除屋)」と呼んでいます。
要は、食べ物から摂る栄養が解決のカギを握っているのです。
では、壊れてリポ蛋白から放り出されてゴミになったコレステロールは、どう処理すればいいのでしょうか。
体内の不要物は、大便か尿に混じって排泄されるのがふつうです。
ところが水に溶けないコレステロールの場合は腎臓で処理できないため、胆汁に混じって捨てられます。
ただし、それには条件があります。
レシチンという物質と一緒になったときに、コレステロールは胆汁として出ていってくれるのです。
HDLが「善玉」と呼ばれるのは、最初からこのレシチンをコレステロールと一緒に用意していることも一因です。
梱包がほどけても、すぐにレシチンがコレステロールを道連れにして体内から出ていってくれるのですから。
一方のLDLもレシチンはもっていますが、少量です。
しかし、レシチンは卵の黄身や大豆などの食品に含まれており、外から調達すればよいのです。
これを十分に摂取していれば余分なコレステロールは適切に処理され、アテロームも発生しません。